2009年05月09日

今日の解説 「成語」

犬   :リディア先生! リディア先生っ!
リディア:あら負犬山くん。…さみだれを あつめてはやし もがみが○
犬   :ぺ!
リディア:…というわけで、アカデミーでは『高校生クイズ』とのコラボレーションをやっているわね。
犬   :いきなり話を横道に逸らすようで申し訳ありませんが、例の誤答って
リディア:ねえ、私もうっかり、なんの断りもなしにネタ振っちゃったけれど、これは説明しないとわからない読者さんもいるんじゃないかしら?
犬   :…そうですね、確か僕がまだ中学生だった時の事だったような…。
リディア:ある回の東北ブロック予選で、上のような問題が出されたのよ。まあ、ボーナス問題だって思ったわ。
犬   :ところが、この問題に当たったチームの代表が、誤答を連発。…もがみがの、もがみがよ、もがみがお…。えっとそれで、最近になって気づいたんですけど、ひらがなで「もがみが」とだけ見せられると、何かの擬音っぽく見えるのかも知れないんですよね。
リディア:うーん、言われてみればそんな気もするような、しないような…。
犬   :うおーもがみがさせろーっ! とか。
リディア:…もふもふ?
犬   :問題を一見して、そんな風に感じて、それに囚われてしまったら…、たぶんあのリーダーさんは、勘で当てるしかない理不尽な問題だと思いながら、必死に立ち向かっていたのかも知れませんね。
リディア:なるほどねえ。
犬   :まあ、高く再評価してやる気はありませんが。
リディア:何様のつもりよ、あなたは…。ところで、実際にトーナメントなどで、過去問題に当たった事はあったかしら?
犬   :はい。…でも、高校生クイズの過去問だからどう、って事は、特に感じませんね。両学問や社会ジャンルが、トータルで若干易しくなったかな、というくらいですか。
リディア:あら、そんなものかしら。
犬   :それより、コラボレーションをきっかけに、改めて思った事が…、でもこれ、今までにも我慢してきた事だからなあ…。
リディア:なに? 気の悪い事?
犬   :ええ。人様への批判になるでしょうね。だけど先日のは、ことさら腹に据えかねたというか、うーん。
リディア:書いちゃいなさいよ。何かあっても知らないけど。
犬   :…さすがリディア先生だ。…時々ですけど「シラネ」とか「しらん」とか、挙げ句の果てには「しるかぼけ」とか打つ生徒さんがいますけど、知らない事を開き直ったり、むしろ威張ったりする人って、何のためにクイズやってるんですかね。
リディア:うわあ…。まあ、思わなくもないけれどね。
犬   :高校生向けに作られた問題、と明示されてるのに、それができる人は、どうかしてるとさえ思いますね。…『源氏物語玉の小櫛』の著者なんて、高校で2回習うはずなんですけどねえ。
リディア:日本史と、国語と、かしら。
犬   :学校で習った事を、全部覚えているなんて事は、まずあり得ませんし、僕だって理系諸科目はサッパリです。でも、習ったはずだって事は覚えてますよ。…習う内容かどうかにかかわらず、わからなければ適当にそれらしいものを入れておくか、ボケに走るかしますね。
リディア:適当に入れて正解する事もあるからね。…ボケを決め打つのはどうかと思うけれど…。
犬   :上手い事ボケると、喜ばれる事がありますから。一方で「知らん」の類は、どうとも思われる事がない上、度を過ごすと不愉快がられる事もあるでしょう。
リディア:うーん。一理あるような、ないような。
犬   :…ボケを滑らせた上に、ライバル生徒さんに失礼があったかも知れないと思った事がありまして、それから3ヶ月、自主的に謹慎しましたっけ。
リディア:…どう反応しろと言うの、その事に…。
犬   :謹慎明け初戦で、決勝まで進んだはよかったものの、難問奇問が続く敷居の高い試合になって、みんなガタガタだったんですよ。そんな時にエフェクトクイズで「迂遠」の読みを問う問題が出たんで「うえーん」と入れてみました。
リディア:……。
犬   :次の問題で、ライバル3人の答えが「うえーんだよね」「なくながんばれ」「いきろーーーーー」
リディア:何その美談めいた展開!?
犬   :アカデミーを始めて何年にもなりますけど、もっとも充実を感じた時の1つですね。この時からは、前にも増して、何とかして上手にボケようと務めるようになって、ライバルに失礼のないボケブラリーの研鑽に励んでいるつもりです。
リディア:…ボケにも歴史があったなんて、先生、感激だわ!
犬   :さて、前回の解説を始めようと思いますが
リディア:ちょっとちょっと! 珍しく心から誉めたんだから、一言くらいあってもいいんじゃない?
犬   :え? 今の、先生一流の褒め殺しじゃなかったんですか?
リディア:わ、私、そんな事……ばかりやってるわね、いつも……。
犬   :まあ、その、お褒めに与れて恐縮です。……あ、あんまりヘコまないで下さいよ、先生。
リディア:……解説しましょうか。
犬   :……はい。まずは前回の選択肢を再掲します。

 ○病息災  ○六時中 ○隣亡  ○百○病 ○公○民
 ○尺    ○○日  ○里半  ○牛の一毛 ○露盤

リディア:問題文には、一から十までのいずれか、とあったけれど、勘のいい人なら、この語群がもう順番に並んでいると気づいたかしらね。
犬   :順を追って説明していきましょう。まずは一病息災。
リディア:もちろん、無病息災という言葉が先にあったのよ。でも後になって、1つくらい不安事があった方が、用心するからむしろ大きな事にならずに過ごしていける、という意味で、この言葉ができたの。
犬   :息災、という言葉は、もともと仏教の言葉で、仏の力に依って災いを止める事を意味します。やがて日本では、身体が無事である事を指すようにもなりました。
リディア:次は、二六時中ね。
犬   :これは、上とは逆に、こちらの方が先にあったとするのが定説になっているようですね。なんとなれば、江戸時代まで1日は12刻でしたから。
リディア:近代に入って、24時間制が浸透した後で、四六時中と言われるように変わったとされているの。
犬   :昔は、時間の刻みを書き表すには「刻」の字を使うのが普通でしたが、話し言葉では、今と同じに「時」の字を思い浮かべていたようです。有名な、蕎麦の落語の題名なんかに現れてますね。
リディア:次は、三隣亡。
犬   :今でもカレンダーに見られる言葉ですが、だいたいひらがなで「三りんぼう」と書かれるようになってしまってますね。
リディア:だけどこれ、漢字で書かないと意味が通じない面もあるわよね。
犬   :ああ、そうなんですってね。恥ずかしながらwikiを当たってみるまで知りませんでした。
リディア:…それじゃ、解説はあちらに丸投げした方がよさそうね…。まったく。
犬   :面目ない事です…。
リディア:続いては、四百四病ね。これは「万病」と同じ意味、つまりたくさんの病気を指す言葉よ。いちおう、読み方はシヒャクシビョウ。
犬   :数えきれないほど多く、として使われる「万病」に対し、より具体的とも言える数が使われている事には、ちゃんと根拠があります。
リディア:漢方医術で古くから使われていた、五臓という概念があるわね。肝、心、脾、肺、腎。このそれぞれに81の病気が生じるとされていて、五臓合わせると405。そこから「死」の1つを引いて、この数になったそうなの。
犬   :死は別枠だろう、と思わなくもありませんが、まあそこは昔の人が考えた事を尊重しましょう。
リディア:次の五公五民って、成語でも何でもないような気がするのだけれど?
犬   :…なるべく、2つの数字を使う言葉は避けようとしたら、他に思いつかなかったんです…。
リディア:五指裂弾とか。
犬   :もっと成語じゃなくなってますよ! たまたま僕が読んでた、数少ないエピソードの1コマから引っぱってこないで下さい!
リディア:コミックの『北斗の拳』は、合わせて3話くらいしか読んでないそうね?
犬   :ハリウッド版は見てるんですがね。さて次は六尺
リディア:待ってよ! 五公五民はどうなったのよ?
犬   :あ、ああ、すみません。これは税の重さを表す時に使われますね。収穫の半分は年貢として持って行かれる、という事で。
リディア:まあ、それ以上は説明のしようもないわね。では、今度こそ六尺よ?
犬   :これは、成語として使う場合、2つの読み方、および意味があります。
リディア:まず、リクセキ、と読むのは、中国の古い言葉で、15歳の事なの。
犬   :本当は、時代によって違いがあったようですが、『論語』の中で、この年頃に父と死別したある君主の事が、六尺之孤(リクセキノコ)と表されてから、15歳と定まったようです。
リディア:また、ロクシャクと読む成語は、これは日本だけの言葉で、偉い人が乗る駕籠を担ぐ役夫の事。
犬   :駕籠かき棒の長さからきているんでしょうが、…6尺ばかりだと、担ぐ人も乗る人も、かなり窮屈だったんじゃないでしょうかね。
リディア:長さに由来する、事物の異名はたくさんあるわよね。探してみると面白いかも知れないわよ。
犬   :続いては、七七日。これは、嫌な噂でも、放っておいてもそのくらいすればみんな忘れてしまう
リディア:グサーッ!
犬   :うわあ、死んだ……。
リディア:みんな、7×7=四十九日が過ぎても、負犬山くんの事をどうか覚えていてあげてね……。
犬   :という事です。読みは「ナナナノカ」または「シチシチニチ」
リディア:次は、八里半。
犬   :これは『箱根八里の半次郎』の略ですね。
リディア:歌わないわよ?
犬   :…ちぇっ。
リディア:本当は、焼き芋の事なの。
犬   :今とは違う品種を使っていたためでしょう、昔の人は、栗の味に似ていると感じたそうです。…栗(九里)に近い、だから八里半、だと。
リディア:これじゃ、栗の味には少し及ばないみたいじゃない、と思った人がいたのかしらね。栗より(九里四里)美味い「十三里」という呼び方もあるわ。
犬   :お終いから2つ目は、九牛の一毛ですね。これは、9頭集まった牛の中から取った1本の毛のように、ごく僅かな事、ほんの些細な事を意味して使われます。
リディア:年配の方なら、割と普通に使う言葉かも知れないわね。
犬   :さてお終いは、十露盤ですね。…何となく見当がついたかも知れませんが、これはソロバンの宛て字です。
リディア:漢字で書く場合、一般には算盤と書くわね。
犬   :解説はこのくらいでいいでしょうか。
リディア:今日はどんなクイズを出すのかしら?
犬   :…ええと、こんなのはどうでしょう?

  四国八十八箇所札所に数えられる寺院は、実は88宇ではない。○か×か。

リディア:…これは、ぶち壊しにできそうな気もするけれど、引っかけ問題に見えなくもないし…、いい狙いかも知れないわ。
犬   :ありがとうございます。…なお、「宇」というのは、寺や神社を一つ一つ数える時に使う助数詞です。
リディア:教会や礼拝堂では「堂」を使うのよ。…モスクには、特別な言葉は定まっていないわね。
犬   :では、今日はこれで失礼します。


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posted by 負犬山禎之丞 at 22:22| Comment(2) | 朦朧堂、衒学の間 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんか狙い打たれてる気がしたので来ました>もがみが○

確かあれは普通のクイズに正解すると俳句穴埋め問題に挑戦でき、そっちを当てると勝ち抜けというルール。
相手チームは俳句は解ってるのに、クイズが当てられないという状況だったと記憶しています。
ただあの誤答は「もがみが」を一つの名詞だと思い込み、「○○よ」「○○の」という俳句っぽい終わりの一文字を適当に言ったのではないかと推測。
思い込みがまずいだけで、方向性としては悪くなかったと思います。
Posted by 鯛千代 at 2009年05月12日 00:51
ああ、そういえばそんな仕組みでしたね。

まあ、いずれにしても…、
「五月雨を」だけで結句が思い浮かばないのは、東北人としてどうかと思います(おい)
Posted by 負犬山禎之丞 at 2009年05月12日 20:53
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